参考
「有機トランジスタの基礎」 材料科学の基礎第6号(PDFダウンロード)
OFETの基本知識
構造
有機電界効果トランジスタ(OFET) は、半導体層に導電性有機化合物を用いたトランジスタです。構造はシリコンのFET(MOSFET)と同様で、基板上に電極(ゲート電極)、絶縁膜、有機半導体層が積層しており、有機半導体層中に電荷輸送体(キャリア)を吐き出すソース電極と、キャリアを取り出すためのドレイン電極があります。このとき、ソース / ドレイン電極の幅を チャネル幅( )、ソース-ドレイン電極間の距離を チャネル長( ) といいます。
動作原理
OFETではゲート電圧( )とドレイン電圧( )を印加することでドレイン電流( )を制御します。ゲート電圧を印加すると、ある電圧 で チャネル と呼ばれるキャリア蓄積層が形成され、電流が流れます。このときの電圧 を 閾値電圧 といいます。
以下は、ゲート電圧 を変化させていった時の - 特性の変化です。
- のとき
- 理論上、有機半導体層に電流は流れませんが、わずかに含まれるキャリアが電流となって流れます。すなわち、 は有機半導体層の抵抗に依存して流れます。
- かつ のとき
- ソース-ゲート電極間の電位差によりソース電極からキャリアが有機半導体層へ注入され、チャネルが形成されます。 が一定であればドレイン電流 はOhmの法則によってソース-ゲート電極間の電位差に比例します(線形領域)。
- かつ のとき
- ドレイン電圧 が に達すると、ドレイン電圧とソース-ゲート電極間の電位差に差がなくなるためキャリアの流れ込みが止まります。このとき、ドレイン電極近くのキャリアはドレイン電極から離れていきます(ピンチオフ)。この状態でのドレイン電圧 を ピンチオフ電圧 といい、ドレイン電流 は の2乗に比例します。
- かつ のとき
- ドレイン電圧 を印加しても、キャリアがドレイン電極に接していないためドレイン電流 はほとんど変化しません(飽和領域)。すなわち、 の変化はゲート電圧 に依存し、ドレイン電圧 には依存しません。
OFETの特性評価
グラジュアルチャネル近似
OFET材料の性能を特徴づける 移動度 は、飽和領域では以下の式でドレイン電流 と結びつきます:
グラジュアルチャネル近似
は絶縁膜の厚さ とその比誘電率 から求められる単位面積当たり容量( )です。
プロットによる移動度の算出
グラジュアルチャネル近似による式:
において、両辺の平方根をとると、
グラジュアルチャネル近似:線形プロット
であるので、ドレイン電圧 を固定したままゲート電圧 を走査することで切片から移動度 を求めることができます。
ドレイン電流の導出
線形領域
チャネル幅 、チャネル長 のOFETの断面を考え、チャネルの任意の位置 での電荷を 、かかる電圧を とします。このとき、位置 にかかる電位と電荷の関係は、絶縁膜の厚さを 、比誘電率を とすれば、
とすることができます。一方、位置 において生じるドリフト電流(移動度 )がドレイン電流 となるので、
が成り立ちます。これらの式から電荷 を消去して、
を得ます。さて、電流の連続性(連続の式)により、ドレイン電流の値は位置 に依らず一定であるので、
としてよく、上式を用いるために与式の両辺を で積分すると、
となります。ここで、 において であるので、電圧 での積分に変数変換すると、
を得ます。上式を求めて整理すると、
となります。さらに、ゲート電圧 を閾値電圧を差し引いた実効的な電圧 とすると、
ドレイン電流(線形領域)
が得られます。
ピンチオフ電圧
ピンチオフ時には - グラフの傾きがゼロとなるので、線形領域におけるドレイン電流の式を で微分して得られるドレイン電圧のゼロ点として、ピンチオフ電圧 を得ます。
飽和領域
線形領域でのドレイン電流:
において、ドレイン電圧 がピンチオフ電圧 のとき、
グラジュアルチャネル近似
が成立します。